熊野神社

山幸(やまさち)と海幸(うみさち)1

失せた釣り針

 火の炎に包まれた御殿で生まれたみ子たちは、やがてたくましい若者になりました。兄の火照命は海の魚を取ることがとても上手で漁を仕事にして海幸彦(うみさちひこ)と呼ばれていました。末の弟の火遠理命は、山のけものをとるのが得意で山幸彦とよばれました。

 ある日、山幸彦が海幸彦にいいました。
「兄さん、一度、私の弓矢と兄さんの釣り針をとりかえっこしましょう」
「いやだ」
 山幸彦は何度もたのみました。そのうち海幸彦はしぶしぶ、釣り針一本だけを弓矢ととりかえてくれました。山幸彦は大喜びで、さっそく海へでかけ、釣り針にミミズをつけて、釣り糸をたれ今か今かと、魚が食いつくのを待ちました。
 しかし、ちっとも釣りざおに手ごたえがないのです。長い間待って、やっと下から引くのであわてて引き上げようとしました。さおはふぃに軽くなり糸の先の針はなくなっていました。

 大変だ 兄さんの釣り針がない!山幸彦は海にもぐり、探しましたが見つかりません。魚は一匹もつれないで。
「ごめんなさい。釣り針をなくしてしまいました」
「だから言ったろう、いやだと。あの釣り針を見つけて返してくれ」
 きびしい兄の言葉に山幸彦は、もう一度、海を探しましたが、見つかりません。山幸彦は腰につけていた大切な十拳(とつか)の剣を打ちこわして、釣り針五百本をこしらえました。海幸彦に、
「これで許してください」とさしだしましたが、
「だめだ、元の針を返せ」
と承知しません。あれだけ探してなかったのです。千本の釣り針を作り、あやまりましたが、海幸彦は
「わしが貸した針を返せ」
と言いつのります。

 山幸彦は海辺に立ち、途方にくれて泣いていました。
「日の神の子孫である虚空津日高(そらつひこ)ではないか。それになぜ、泣いておられるのか」
どこからともなくあらわれた塩椎神(しおつちのかみ)がたずねました。塩椎神は海の智慧の神です。山幸彦はわけを話しました。
「ご安心なさい。私がよいようにはからいましょう」
 塩椎神は、水中も走れる水の入るすきまのない不思議な無間勝間(むなしかつま)の小舟をつくりました。
「さ、これにお乗りください。しばらく行くままにまかせるのです。よい道筋がついていますから。やがて魚のうろこをはりめぐらしたような御殿につきます。海神(わたのかみ)のご殿です。門のわきに井戸があり、カツラの木が繁っています。その木のうえでお待ちになれば、海神の姫が見つけてよいようにとりはからいます」
と、塩椎神は船を押し出してくれました。

 その言葉どおり、山幸彦を乗せた無間勝間の小舟は、立派な海神のご殿につきました。山幸彦はカツラの木の枝に腰かけて待ちました。海神の姫、豊玉姫の侍女が水くみにきました。井戸の水面に輝きうつる人かげに侍女はおどろいて見あげました。
 りりしい若者が木の上から侍女に声をかけました。