熊野神社

豊葦原の瑞穂の国へ1

邇邇芸命(ににぎのみこと)

 天照(あまてらす)様と高木神(たかぎのかみ)は正勝吾勝勝速日天忍穂耳命(まさかあかつかちはやびあめのおしほみみのみこと)に、
「葦原の中つ国はおだやかになった。前に申しつけたように天くだってゆき、治めなさい」
と申されました。命(みこと)は、
「私が天くだる用意をしておりますところへ、み子天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命(あめにぎしくににぎしあまつひこひこほのににぎのみこと)が誕生しました。私よりこのみ子を、おやりくださる方がふさわしいです」
と申しました。

 長い邇邇芸命(ににぎのみこと)のお名は、この命が天くだると天上も地上もにぎにぎしく栄え、日は高く輝き恵みを行きわたらせ、稲穂は豊かににぎにぎしく実るということを、たたえた名まえなのです。
 邇邇芸命(ににぎのみこと)が高木神(たかぎのかみ)の娘 萬幡豊秋津師比売命(よろずはたとよあきつしひめのみこと)からお生まれになったことにも、深い天の心がこめられています。

 天照大神(あまてらすおおみかみ)はあらためて邇邇芸命(ににぎのみこと)におおせられました。
「豊葦原の瑞穂の国へくだり治めなさい。すべてのものは神のいのちのあらわれ、神の恵みであることを知らせて、皆がよろこび幸せに暮らすために、その中心となるのです。天神(あまつかみ)の子孫を中心にする国は、天地の筋道にかなっていますから、天地が永遠につづくと同様、永遠につづいていくでしょう」
 豊葦原の瑞穂の国とは、豊かに葦が生い茂り、稲穂がみずみずしく実っている国、日本の国ということです。

 邇邇芸命(ににぎのみこと)がいよいよ旅立とうとなさったときです。天空の道が八方にわかれ広がる、その真ん中に立ちはだかっているものがいます。ずば抜けて大きな体から放つ光は、高天原から中つ国まで届いています。その鼻は長々と、目はまるでほおずきのように大きく赤く輝いていました。
 天照様(あまてらすさま)と高木神(たかぎのかみ)は天宇受売神(あめのうずめのかみ)をお呼びになり、
「あなたは心やさしい女ではあるが、事あるときは物おじしない。どんな荒くれものにもビクともしないで面と向かっていく。その勇気であのものに聞いておいで。天神(あまつかみ)のみ子がこれから通ろうとする道をふさいでいるお前は何物で、なぜ、そこにおるのかと」
天宇受売神(あめのうずめのかみ)はすたすたと巨大な神の前に行き聞きました、
「私は猿田毘古神(さるたひこのかみ)と申す地上の国を守る神です。高天原の神のみ子が天くだられるとうけたまわり、道案内をさせていただこうとおむかえに参りました」
と礼儀正しく答えました。